思い出作りのお手伝い(羽根の禿)

私のホームページをご覧いただいた東北地方の女性の方から1月のある日に相談のお電話をいただきました。

 

昨年、地元で踊りの発表会があり、小学校5年生のお嬢様が「羽根の禿(かむろ)」を踊られたそうですが、折悪しく大震災にみまわれたため、発表会は中止にはならなかったものの、自粛ムードもあり本衣裳を着けない質素な発表会になってしまったのだそうです。

 

本来なら本化粧に本衣裳、かつらを着け、晴れやかな思い出ができたはずなのにと本人は勿論、ご両親、おじい様、おばあ様までが大変がっかりされたそうです。

 

そこで、なんとか写真だけでも撮っておきたいというご相談でした。

 

実は、扮装だけして記念写真を撮りたいという相談は、結構あります。

京都では、観光客が舞妓さんの扮装をして写真を撮るサービスがあるようですが、その延長線上でお考えになる方が多いのです。

 

しかし、日本舞踊の場合は、すべて分業になっています。

つまり、化粧をするのは顔師、衣裳を扱うのは衣裳屋、かつらは、土台を作って毛を植え付けるのがかつら屋で髪をいろいろな形に結い上げるのは床山という具合です。

また、扇子や下駄や持ち道具などを扱うのは小道具屋と、一つの役を作るためには大変多くの人々が関わります。

日本舞踊は、総合芸術といわれる所以(ゆえん)ですね。

従って、ザックバランにいえば、大変お金と時間がかかるのです。

ですから、見積を申し上げると皆さんビックリされて計画をお止めになってしまわれます。

 

ですが、今回のご相談は、少し内容が違うと思いました。

 

本来だったら厳しいお稽古の成果を晴れやかな衣裳でお披露目できたであろう機会を千年に一度といわれる大震災のために逃してしまったわけです。

 

何もなければ今頃は、発表会当日の晴れ姿の写真をご家族でご覧になって幸福に包まれていたことでしょう。

それができないことがポッカリと大きな穴になっていて、何とかそこを埋めたいというお気持ちは、痛いほどわかりました。

 

えーい、こちとら江戸っ子でえー!(本当は新潟の生まれ)

何とかお役にたちやしょー!!

 

いってはみたものの、何軒かのかつら屋さんや衣裳屋さんには体よく断られたりして、ようやく快く引き受けてくださるところを見つけました。

 

問題は、寸法採りです。

衣裳にしろかつらにしろ、通常はご本人の寸法を直接測ったうえで、衣裳やかつらを用意するわけです。

特にかつらは、土台になる地金というアルミや真鍮でできた薄板を頭の形に丸く打ち出して作るのです。

東京近辺の人なら問題ありませんが、なにしろ東北の方なので、こちらから出向くにしろ来ていただくにしろ時間と経費がかかります。

 

そこで、かつらについては、頭の写真と頭の周りの寸法を基にかつら合わせをせずに作ることになりました。

まさに職人技です。

 

ここまでくると私の方が心配になりました。

まだ、お電話で声しかお聞きしたことがないはるか遠方の方なので、まさか気が変わって気軽にキャンセルなんかしないよねー…と。

それに、住所も、下の名前も聞いてなかったよなー。

無理をいって頼み込んだ手前、キャンセルされたら丸々おれっちの負債になっちゃうしなー。

江戸っ子は、辛いなー。

 

ところが、そんな心配は無用でした。

ご一家(ご両親とお嬢様)で東京においでになるついでがあるのでと、私共の家においでくださいました。

お蔭で、採寸と写真撮りができました。

採寸後、これからどうされるかお聞きしたところ、原宿の竹下通りに行かれるとか。

大変、仲の良い微笑ましいご家族でした。

 

こうして、データを衣裳屋さんとかつら屋さんにそれぞれ渡して、めでたく撮影当日を迎えました。

 

写真スタジオは、どこでもいいという訳にはいきません。

日本舞踊の知識がないとポーズも決められないからです。

上野のMデパートのKスタジオにお願いしました。

Kスタジオには、お化粧や着付をするスペースもあり、なによりも東北の玄関口で、おいでいただくのに大変好都合でした。

 

お化粧と着付で1時間、写真撮影に1時間半と、無事に終了しました。

あー、よかった。喜んでもらったしなー。

 

支度の様子

花の素顔です。

羽二重を着けます。

眉毛を消します。

下地油を顔全体に塗ります。

下地油を塗らないと肌に白粉がつきません。また、下地油がムラになっていると肌に白粉が均一につかず、ムラムラになります。油は透明なので写真には写りませんので悪しからず。

いよいよ白塗りです。

こうして、一旦、白いキャンバスを作ります。通常、ここまでを下塗りさん(助手)が行い、ここから親方(我々の世界の呼び方)が仕上げをします。

ピンクぼかしを要所に塗ります。

これにより顔に凹凸がつきます。目元ほんのり桜色にするわけです。

眉を引きます。

指を使って眉の表面に濃淡をつけ、柔らかい感じにします。

筆の尻を使って目頭にきめこみを入れます。

目を切れ長に大きく見せるためです。筆の尻ではなく指で入れることもあります。

目張りを入れます。

やはり、指を使います。顔師は、筆代わりに指を結構使います。(歳をとってもボケないかもなー…)

え、もう十分歳とってるしボケてるじゃないのだって。口惜しー!!

アイラインを入れる。

歌舞伎の役者さんは入れませんから、日本舞踊独特の方法だと思います。

口を取ります。(口紅を塗ることの業界用語です)

完成

次に着付です。

羽根の禿(かむろ)のかつら

「はねのかむろ」と読みます。ある日のおさらい会で司会者が、「はねのはげ」と紹介していたのにはビックリしたなー。確かに字は同じですけどね。

禿とは、吉原遊郭で花魁の身の回りの世話をする少女で、やがて自分も花魁になる宿命を負っています。

羽根の禿とは、普段忙しく働く禿(少女)が、正月に束の間の暇を見つけて羽根つきに興じる姿を描いた長唄舞踊です。

撮影風景

途中でお休み

こうして、無事終了しました。

お疲れ様―!!