羽二重のお掃除

暇を理由に遊んでばかりいるとロクなことがないので、働くことにしました。

商売道具の羽二重のお掃除です。

これも、本当は、企業秘密に属する事柄ですが、伝統文化の継承のため、思い切って発表しちゃいます。

 

羽二重は、鬘をかぶる時の下地に使います。

使用目的は、髪の毛を纏めて収納することと肌のたるみを取ってお化粧をしやすくすることの2つ。

 

羽二重の種類は、目吊り(めつり)、半羽二重、丸羽二重の3種類で、目吊りは女形、半羽二重と丸羽二重は立役(男の役)に使います。

 

どの羽二重も、肌に密着させたり、羽二重自身がずれて緩まないように要所要所に太白(たいはく)という蝋を原料にした樹脂を塗ります。

この樹脂のお蔭で、着けたり外したりと何度でも、羽二重を使用することが出来ます。

 

この太白という樹脂は、恐らく江戸時代の歌舞伎役者が考案したものと推察されますが、今で言うマジックテープと何度でも貼り直せるポストイットの糊の機能を合わせ持つ優れもので、科学が発達した今日でも、これに替わる材料が考えられません。

 

今日ならバイリーンとマジックテープかなんかで出来た使い捨ての羽二重があってもよさそうなものですが、そんなものは有りません。(考えて特許でも取ろうかな)

 

こんな万能な羽二重ですが、何度か使っているうちに白粉や髪の毛や汚れが付いて、粘着性が失われたり汚くなってきます。

 

本当は、衛生上、再使用しない方が良いのでしょうが、丁度、2~3回使った羽二重の方が肌に馴染んで使いやすくなるなどの理由で、数回は使います。(1回使ったら洗濯する顔師は、多分いないと思うけど…そういう風に先輩から教わってきた訳ですが…これからは、それを売りにする手はあるかもな…)

 

で、定期的に羽二重のお掃除が必要になる訳です。

 

今回は、一番使用頻度の多い女形に使う目吊りをお掃除します。

 

汚れた目吊り

お掃除の道具類

 

昔懐かしい洗濯板

粉石けん

電熱器(保温器)

ぼろきれと太白と木のヘラ

太白を塗る台板

お掃除の手順

1 目吊りの頭を覆う部分を洗う。

  *経験上、粉石けんが一番汚れを落とす。

洗濯板を使い、一枚一枚、粉石けんをまぶしながらゴシゴシ手洗いします。

これが結構重労働で、十枚も洗うと摩擦と粉石けんの成分で手が真っ赤になりヒリヒリしてきます。

十分にすすぐ。

2 干して乾かす。この時点では、足の部分は汚れたままです。

3 足の部分を掃除する。

(1)電熱器(私の場合は、保温式の鍋敷きを使用)で汚れを浮かせてぼろきれで拭い取る。

(2)裏表を丁寧に拭い取り完全に汚れを取り去る。

  *汚れは、熱に弱いので面白いように綺麗になる。

反対側も

上はお掃除済みで下はお掃除前(下はピンクの白粉が付いているのが分かりますか?)

4 要所に太白を塗る。

  *おでこの部分と両こめかみに当るところと両方の末端部分の5か所に塗ります。

5 たたむ。これで完了。

あー、めっちゃ疲れた!!(ヤング風に)

 

ちなみに、羽二重の紫の部分は、洗ってもよいのですが、足の部分は、常に太白が滲みていなければならないので水洗いできず、熱で汚れを落とします。

 

紫の部分も足の部分も、絹でできています。

絹なので羽二重という訳です。

 

紫の部分は、絹の白い反物を染物屋さんに染めてもらいます。

結構、お金がかかりますが、われわれ顔屋は大量に使いますので、自分たちで使いやすいように工夫して羽二重を作り、大切に使用します。

 

ああ、それなのにそれなのに、顔屋泣かせの話もあります。

出演者の鬘は、鬘屋さんから借りるため、踊りが終われば出演者は、鬘を外してもらいに鬘屋さんの元へ帰ってきますので、顔屋は、その時羽二重を回収するのですが、鬘屋さんの部屋と顔屋の部屋がたまたま別だったり、同じ部屋でも、その時、うっかり帰ってきたことを見落とすと、出演者は羽二重をしたままご自分の楽屋に帰ってしまい、羽二重を楽屋のゴミ箱に捨ててしまう方もおいでになります。

おさらい会の終演後、命より大事な羽二重の数が足りないことに気づき、慌てて出演者の楽屋のゴミ箱を探し回ることもあります。

 

また、ご自分の鬘の場合、お化粧が余程気に入ったのか、踊りが終わるとそのままの格好でご自宅にお帰りになる方もおいでになります。

もう、こうなると羽二重の回収は、絶望的です。

 

今までに、何枚、羽二重をなくしたかなー。

寂しーー!!

 

と、発表会のない時は、こうして日夜道具の手入れを怠らず、やがて来るであろう仕事に備えているのです。

 

偉いねー。

 

え、あたりまえですって!

 

こ、こりゃまた、失礼いたしました。

 

おしまい。