思いがけない出会い(人であり、ものであり)

なにやら、思わせぶりな表題ですみません。というのも、偶然の驚きを伝えたかったからです。 先日、御茶ノ水の町を歩いていると一軒の画材屋さんを見つけました。得應軒本店と看板のあるその店は、私が、化粧の材料を買っている谷中の店と同名でした。別に買いたい物も無かったのですが、つい引き込まれてふらりと入るとおかみさんが出てきて谷中の店とは経営は別だけれどそちらは親戚がやっているとのことでした。

私は、良く画材屋を訪ねます。何か化粧に使える材料や道具は無いかと。筆とか刷毛とか墨とか紅とか。相談すると色々教えてもらえます。

しかし、最初は、化粧と日本画と全くジャンルが違うので何に使いたいか説明が難しくなかなか身分を明かせません。そうは言っても、とどのつまりは、用途を明かさなければなりません。と言うのも、人に使うものですから毒性があると困るわけです。そこで初めて顔師だと名乗ります。するとどうでしょう!歌舞伎役者が、良く買いにくると言う話になります。で、どんなものを何に使うと言っていましたかと話が進む訳です。谷中の店でもそうでした。その向かいに金開堂という店があり、やはり歌舞伎役者の出入りがありました。で、そこで聞いた材料を実際に使って見ると、なるほど、いい塩梅の時が多々あります。へえー、役者は、こんなものを使っているのかと大変勉強になります。

 今回も、おかみさんと話をしていて、今、職人さんが減っていてなかなか良い道具に巡り会えない、なんて話しているところへご主人が帰って来ました。で、三人で、最近は京紅が手に入らなくて困ると話すと、先日、市川染五郎丈が、青味の成分が入っていない紅が欲しいと相談に来たそうです。実際に買っていかれたものを見せてもらいました。彩雲洋紅と言う名前でした。何というロマンチックな名前でしょう。すかさず、購入しました。真似する訳ではありません。だって、染五郎丈が、何に使うのかまではわかりませんから。私は、私で、この材料と向き合い、口紅にするか、油紅にするか、はたまた、今ある材料とブレンドして何かを生み出すかと研究する訳です。

良いものが出来たらお知らせします。いや、まてよ。これって、企業秘密だよね。じゃあ、やっぱり内緒だ。こっそり使いましょっと。

 それにしても、そう言っては失礼ですが、今回のことで染五郎丈を見直しました。あれだけ大人気で多忙な御曹司が、化粧の材料など、お弟子さんかマネージャーが見繕っているんだとばかり思っていましたのに、紅にこだわって自分で町に探しに行くなんて夢にも思いませんでしたから。しかも、青味の入らない純粋な紅探しとは。

 そこまでとことんこだわって、伝統の舞台が作られていることを知り、感動しました。

 私も、頑張らなくちゃあ…と意を新たにした次第です。

 

(ニコライ堂は、本文とは関係ありませんが、御茶ノ水なので入れてみました。)